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zoom RSS 小説 あやかしの里(その2)

<<   作成日時 : 2011/09/26 23:18   >>

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 お前は一体何者だ!

 刑事は私を睨みつけて怒鳴った。

 そして机の上に置かれた缶のフタを開け両切りピースを一本取り出し机の上でトントンと叩いて、くわえ火を点けた。甘い香りが取調室に拡がった。

 『何者だ』と言われても。

 私は呟くように言った。

 お前の持っている物は皆でたらめな物ばかりだ!

 先ず金。

 そもそも500円硬貨なんて子供じみた物をこしらえたうえに偽の千円札、五千円札、1万円札そして改造バイク。メーカーに問い合わせたが「そんなバイクは販売してません」って言ってたぞ。大体この車検証に書かれた平成25年って一体いつの事なんだ。

 だから2013年の事ですよ!

 私は、つい声を荒げて言ってしまった。

 その時若い刑事が部屋に入ってきた。

 こいつ立件出来ますよ。

 この10円硬貨と1円硬貨。

 これは現行の硬貨と酷似しています。

 つまり贋金として摘発出来ます。

 彼は興奮しながら言った。

 それにしても精巧に出来てるな。

 まるで本物だ!

 刑事は感心して言った。

 私は反論する元気が無かった。

 本当は「冗談じゃない!ちゃんと働いて得た報酬だ贋金なんかじゃない」と言いたかったが、それは無駄だった。

 何しろ私が今居るのは昭和44年の日本だからだ。

 そう理解せざるを得ない。

 警察署に入って取調室まで行く間の廊下にあったカレンダーが昭和44年だったからだ。

 私は多分夢を見ているのだろう。

 こういう場合は夢の流れに従うほかない。

 その夜私は生まれて初めて鉄格子の留置場で泊まった。

 悪夢から目が覚めることを祈り眠りについた。

 だが目覚めたのは21世紀ではなく昭和44年の留置場だった。

 朝の9時から始まった取調べは昨日と全く同じ質問の繰り返しだった。

 私はオウムのように昨日言った事を繰り返し刑事も同じ所で聞き直した。

 まるでデジャブのような取調べは翌日も続いた。

 強情なヤツだ。

 刑事は呆れ果てて言った。

 3日後弁護士が面会に来た。

 どうやら私は本格的に起訴されるようだ。

 容疑は無銭飲食ではなく通貨偽造。

 でも、まだ助かる方法はあるらしい。

 詳しい話は無かったが50%の確率で無罪となる可能性があるらしい。

 まあ、有罪が確定しても罰金刑で済むでしょう。

 弁護士は言った。

 私は自らの無実を主張する元気は無かった。

 多分彼は私の主張を聞く耳は持たず自分の言い分を押し通すタイプの人間だろうと思ったからだ。こういった人間に対し下手に意見をしようものなら却って機嫌を損ね状況を悪くしかねない。

 どちらにしても早くここを出たい。

 たとえ夢でもこんな所には居たくない。

 それにしても留置場は酷い所だ。

 話には聞いていたが本当にダニがいた。

 それにノミも。

 そのうえ4日も風呂に入っていないから気持ち悪い。

 こんなに臭い自分の体臭を嗅いだことはない。

 ただ食事は近所の食堂からとってくれるので所謂臭いメシではなく美味い。

 ※だけど毎日中華なのは少しうんざりする。

 翌日面会人が来た。

 ドライブインで会った例のカップルの女の子の方だ。

 彼とも話したんだけど貴方はゼッタイ悪人じゃないと思うの。

 それでパパに話したら『仮釈放してもらえるかも』って言うの。

 そんな訳で彼の父親を身元引受人にして貴方を出してもらう事にしたわ。

 私には彼女が女神様に見えた。

 その日の夕方私は保釈され迎えに来た彼女に促されるまま黒塗りの縦目のベンツの後部座席に滑り込んだ。横には彼女が坐っている。

 余り近付かないほうがいいよ、留置場にはノミやダニが居たから。

 私がそう言うと彼女は『きゃっ!』と小さく声を挙げて私から離れた。

 ベンツの後ろにはハコスカが澄んだエンジン音を響かせてついて来ている。

 窓から見える街並みはコンクリートのビルは全く無く2階建てが精々で多く

は平屋の木造家屋が道の両側に並んでいる。私の知る相模原の街並みではない。

 20分ほどで立派な門構えの家に着いた。

 運転手が降りて頑丈そうな鉄製の門扉を重そうに引いて開けた。

 するとハコスカが当然の事のように先に入り私たちの乗るベンツが後から続いた。

 目の前には大きな2階建ての洋館があり門の前には初老の男性が立っていた。

 彼はハコスカの主の父親で、この辺りの地主だということだ。

 その夜は久しぶりに風呂に入り大いに食べた。

 夕食の席で彼の父親が私のバイクは証拠品として鑑定に出され、しばらく戻ってこない事を告げた。

 夕食後、私はアポロ11号が月に着陸する場面をハコスカの彼とその家族と一緒にテレビで観た(実際に月に着陸したのは昼前だったので録画だった)

 母船から切り離され月に次第に近づいてゆく様子を皆真剣な眼差しで追っている。全てを知っている私は解説を入れたい気持ちを堪えテレビ画面と彼らを交互に観ていた。

 着陸した時には「やったー!」と皆が歓声を挙げた。

 「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である (That's one small step for [a] man, one giant leap for mankind.)」

 月に降り立ったアームストロング船長の言葉が即座に和訳され伝わった。

 今私は本当に妙な気分だ。

 なにしろ高校の歴史の教科書にも載っていたような歴史的なイベントに立ち会っているのだから(実際に着陸したのは10時間前ではあるが)

 その夜私はハコスカの彼と父親に今までの出来事と自分の今までの生い立ちを正直に話した。

 2人は不思議そうな顔をして互いの顔を見合わせた。

 信じられん!

 でも君は信用できる人物だと思う。

 だから息子共々君をサポートする。

 父親は言った。

 翌朝、私はハコスカに乗って警察署に行った。

 今日は刑事の他に背広姿の男性2人が取調室に入りバイクについて尋ねられた。彼らはメーカーの人間だという。そこで私の知る限りの情報、愛車ゼファー750の歴史から、その原点となるカワサキ750RS(Z2)の誕生の話をした。

 2人は目を白黒して私を見ている。

 なんでそんな事を知っているんだ?

 年配の方が尋ねた。

 『なんで知ってる』って言われても、これはカワサキの開発者がマスコミに語った有名な話ですよ。

 私の言葉に2人は更に驚いたようだ。

 大事な企業秘密を発表前にマスコミに公表するはずが無い!

 再び年配の方が言った。

 でも昨年のモーターショーでホンダがCB750をデビューさせたので開発中の750cc4気筒モデルを900cc版で焼き直す計画をしているのは事実でしょ?

 私の言葉に彼は言葉を失ったようだ。

 ※図星らしかった。

 私は急遽500SSの焼き直しの750SSを来年デビューさせる計画も話した。

 君は一体何者だ!

 彼は刑事と同じように目を丸くして言った。

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