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zoom RSS 小説 あやかしの里(その5)

<<   作成日時 : 2011/11/02 03:34  

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 OHモーレツ!

 有鉛ハイオクガソリンのCMがテレビから流れてきた。

 もーれちゅ

 愛子ちゃんが真似をして言った。

 私は、その可愛らしさに思わず笑みがこぼれるのを感じた。

 今私は相模湖近くのドライブインで働いている。

 そう、無銭飲食で警察に突き出されたドライブインだ。

 このドライブインの経営者の芙美枝さんは元々辰夫くんの父親が経営する不動産屋で働いていたのだが社長(辰夫くんの父親)と深い関係になり愛子ちゃんをみごもったので会社に居られなくなり会社から離れた、ここ相模湖近くに手切れ金代わりに店を持たされたという事らしい。

 ただ厳密には2人の関係は続いていて辰夫くんは、この事を良くは思っていないようだが黙認している。

 理由は腹違いの妹である愛子ちゃんが不憫で仕方が無いということらしい。

 ※涼子ちゃんが教えてくれた。

 それはいいとして、何でそんなややこしい所で私が働く羽目になったのかというと話は3日前に遡る…

 私が普通免許を取ったお祝いという事で辰夫くんと涼子ちゃんと3人で神戸岩(「かのといわ」と読む)のロッジでキャンプをする事になった。映画の時のように私が山車に使われたという事だ。

 でも祝ってくれるのは本当のようだ。

 路上での運転の練習という事で交通量が少なくなった青梅から古里(「こり」と読む)までの10kmほどを私が運転する事になった。歴代の名車、それも慣らしが終わったばかりの新車に乗れるとは幸運だけど緊張した…でもそれは発進するまでで、いざ走り出すと軽快な排気音と鋭い加速そして素直なハンドリングに魅了された。正直な感想をいえば私の知る21世紀の2リッターのセダンよりも加速は鈍いしブレーキの効きは悪い、そしてタイヤの限界も低く少し攻めるとキーキー鳴く。でもエンジンの反応とエグゾーストノートは本当に魅力的だ。

 そんな訳で10分あまりのドライブを楽しめたが涼子ちゃんには私の運転は乱暴すぎたようだ。蒼い顔をして道端でかがみ込み吐いている。

 私は申し訳ない気持ちで一杯になり何度も謝った。

 気にしなくていいんですよ、コイツ昔っから乗り物酔いが酷いんです。だから本当に気にしなくていいんですよ。

 辰夫くんが涼子ちゃんの背中をさすりながら言った。

 辰夫くんに運転を代わってもらうと涼子ちゃんは再び元気になった。

 幅4,5mくらいの沢が直ぐ近くにあるロッジの前にGTRを停め私と辰夫くんは早速釣り道具を取り出した。

 私はビニールケースからルアー(シルバーのスプーン5グラム)を取り出しラインに結びつけた。

 そんなもので釣れるんですか?

 辰夫くんがケースの中のルアーを覗き込みながら不思議そうに言った。

 イワナなんかは結構反応するよ。

 私はそう言ってロッドを担いで沢を上流に向かって歩いた。

 エサ釣りをする辰夫くんの邪魔にならないように20mほど離れてルアーを投げ込んだ。流れが急な所を選んで数分粘ったが手応えが全く無い。

 辰夫くんは20cmくらいのヤマメをもう2匹釣り上げている。

 スプーンからミノーに交換しようかと思っていたら少し強い魚信(あたり)があったので急いでラインを巻き上げるとサンショウウオだった。釣れたのではなく背中を針が貫き「引っ掛かった」というのが正しい。

 オオサンショウウオですね、結構多いんですよここ。

 辰夫くんが向こうで言った。

 私が処置に困っていると辰夫くんがやって来て手馴れた手つきでサンショウウオを針から外し下流に投げ込んだ。

 アイツが居るって事は、この辺りに魚が居るって事ですよ。

 辰夫くんがそう言ったので私はミノーに交換して渓流に投じた。

 3投目に強い魚信があり慎重に巻き上げると30cmクラスのイワナが上がった(尺イワナだ)

 その後30分ほどルアーを投げ込んだが魚信は無かった。

 そろそろ引き上げましょうか?

 辰夫くんが言った。

 私は彼の提案を快く受け容れた。

 ロッジの前には涼子ちゃんがレンガを組んでバーベキューの準備を終えたところだった。

 辰夫くんが釣ったヤマメが6匹は塩焼きに、私の尺イワナ1匹は切り身にしてソテーする事にした。調理は私が申し出た(鱒族の調理は自信がある) 辰夫くんはレンガの中に薪を入れ火を起こし始め、涼子ちゃんはワインとスパイスで下味を付けた肉に銀色の串を刺して焼く準備をした。

 薪が湿っているようで中々火が点かず煙ばかり出ている。

 早く点けてよ、肉焼けないジャン!

 涼子ちゃんが辰夫くんに言った。

 そんな事言っても仕方ないだろ!薪が濡れてんだから。

 辰夫くんは煙が目に滲みたようで涙目になりながら言った。

 30分ほど格闘してようやく最初に入れた薪が炭になり赤くなっているが肉を焼くには火力は弱い。だからといって新しい薪を入れると湿っているので、また煙が出る。

 くん製にしませんか?

 私が提案した。

 くん製?

 2人は私の顔を見ながら不思議そうに言った。

 この桜の木でスモークすると旨いんですよ肉も魚も。

 私の言葉に2人は良く分らないまま納得したようだった。

 私はフライフィッシングのラインの下巻き用に持ってきた木綿糸をバッグから取り出し肉と魚をそれぞれ結びレンガの上に被せている金網に吊るした。

 薪をくべて1時間くらい、ほっとけば上手い具合に味付けされますよ。

 私の提案に皆納得し、それまで持ってきたスナック菓子で酒盛りを先にする事にした。空腹に酒は良く効いた。涼子ちゃんが持ってきた澤乃井(辛口)という酒が口当たりが良く、つい飲み過ぎたのがいけなかった。私はものの数分で意識が遠ざかり寝込んでしまった。

 もしもし、大丈夫ですか?

 若い警官に揺り起こされ私は目覚めた。

 辰夫くんと涼子ちゃんも眠そうな目をこすりながら目の前に坐っている。

 どうやら2人とも私同様寝込んでしまったようだ。

 辺りはすっかり暗くなっている。

 事情を説明すると警官は「そうですか、ビックリしましたよ見回りで走ってると3人が家の前で倒れてるから」と言った。

 その時涼子ちゃんのお腹が鳴った。

 それが妙におかしくて私は思わず吹き出した。

 辰夫くんも連られて笑い出し続いて涼子ちゃん、そして警官も笑い出した。

 一度笑い出すと、もう止まらない。

 4人はしばらく腹を抱えて笑った。

 その時、美味しそうな臭いが私の鼻を過ぎった。

 そうだ肉と魚!

 辰夫くんがレンガの窯に向かいながら言った。

 薪の火は消えていた。

 肉も魚も人肌くらいの温もりだった。

 涼子ちゃんが恐る恐る肉を口に運んだ。
 
 私と辰夫くん、そして警官までもが息を呑んで見守っている。

 美味しい!

 涼子ちゃんが目を輝かせて言った。

 いや、本当に美味しいですね。

 警官がヤマメを頬張りながら言った。

 須藤さんて魚さばくの上手いですね。涼子なんか三枚下し出来ないしウロコ落とさせると半分くらい残ってるし。

 辰夫くんが言うと涼子ちゃんは彼を睨んで頬を膨らませた。

 ホント美味しいですよ。

 これ売れますよ。

 警官が言った。

 そうだ、こだま(私が訴えられたドライブイン)でこれ出そうよ。

 辰夫くんが提案した。

 そういう訳で今私はここで働いている。

 ただ、この店、くん製の前にやらねばならない課題が山ほどある。

 そもそも、ここの女主人である芙美枝さん、飯は炊けるが料理は全くダメ。

 だから先ず基本的な煮る焼くという事から教えなくてはいけない。

 これは彼女が怠けていたからではなく中学を出るまで山奥で暮らし粗末な食事しか口にしていなかったためで仕方ない話だ。この店を始めるまでドライブインどころか飲食店にすら入った事が殆ど無かった彼女が持つ食べ物の知識は相模原の勤め先の近くにあった商店街のコロッケや芋の煮付けといった惣菜しかない。だから、あんなメニューしか出せなかったのだ。

 高度経済成長で都会の子供たちの殆どが高校へ進学するなか、田舎の子供たちは家計を助けるため中学を出ると奉公に出るのが殆どだった。

 辰夫くんの父親の愛人であるという事実を除けば芙美枝さんは普通の年相応の女性だった。ただ辰夫くんや涼子ちゃんのように教養(ここで言う教養とは単なる知識に近い)は乏しく語彙も少ないので何かにつけ言葉足らずだ。

 その事は彼女も充分分っているようで、余計に引っ込み思案になる。

 でも時々強く出る所がある。

 私の言葉の端に彼女を見下すようなものを感じてのようだ。

 もちろん私はそんな事はしない。

 それは彼女も充分分っているのだが私の言葉が理解できなかったり上手く自分の考えが表現できなかったりすると時々爆発する。

 ※爆発といっても少し眉が吊りあがる程度だが。

 そうそう、私が教えるのは料理だけでない。

 帳簿付けと、それに必要な簡単な数学(というほどのものではないが)もセットで教えなければいけない。

 そんな訳で夜8時に店を閉めると伝票を整理して(1日に数人程度なのでものの5分もあれば片付く)勉強を2時間ほどすると10時を回っている。朝10時の開店までに出勤し夜の10時までの勤務で12時間労働で時給150円で日当は1800円。月25日出勤だから月給は45000円。この時代の給与としては普通のようだが問題は1日の売上が大体千円前後という事だ。

 売上よりも高い人件費。

 つまり、この店そのものを辰夫くんから任されたという訳だ。

 うーん、どうやら私は彼に、はめられたようだ。

 恐るべし辰夫くん。

 しかし私には断る術はない。

 彼に従うしかない。

 どうやら私は、この時代でも所謂プロレタリアートのようだ。

 でも嫌な気はしない。

 これは彼の人徳だろう。 

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